I )社会福祉法人制度改革
改正社会福祉法が2016年3月31日に可決、成立し、同日公布されました。今回の改正の大きな柱は「社会福祉法人制度改革」であり、運営の透明性向上と財務規律強化がポイントです。その改正の概要は以下の通りですが、何かご不明な点がありましたら、何なりと当事務所までご連絡ください。
1 評議員会の設置を義務化
組織運営のガバナンスを強化すべく、議決機関としての評議員会の設置が義務付けられます(第36条)。役員や会計監査人の選任、解任や定款の変更は、この評議員会の決議によって行われます(第43条、第45条の4、第45条の36)。また、一定規模以上の法人については、会計監査人による監査も義務付けられました(第37条、第45条の28)。 評議員は役員等とともに、社会福祉法人や第三者に対する損害賠償責任を負います(第45条の20)。
2 財務規律の強化
適正かつ公正な支出管理を目的として、以下の整備が行われました。
*役員報酬基準の作成と公表(第45条の34、第45条の35)
*役員等関係者への特別の利益供与の禁止(第130条の3) 等
また、いわゆる内部留保の明確化、社会福祉充実残額の社会福祉事業等への計画的な再投資のため、「社会福祉充実計画」に関する条項が新設されています(第52条の2等)。
*「社会福祉充実残額(再投下財産額)」(純資産の額から事業の継続に必要な財産額を控除等した額)の明確化
ここまでの項目については、平成29年4月1日に施行となります。
U)社会福祉法改正で、2017年3月末までにすべきこと
法改正で、施行日までに備えなければならないことについてまとめました。
*定款を変更する 既存の法人は、平成29年3月までに理事会の承認を受けて定款を変更し、平成29年4月1日までに所轄庁の認可を受けなければなりません(附則第7条)。改正法では、「評議員や役員に関する事項」及び「理事会に関する事項」が定款に定めるべき事項として追加されています(改正法第31条@)。 なお、平成29年4月1日以降に定款の変更を行う場合には、評議員会の決議が必要となります(改正法第45条の36)。
*評議員を選任する 定款を変更したら、定款で定めた方法で評議員を選任します(改正法第39条)。理事又は理事会が評議員を選任することはできません(改正法第31条D)。 改正法に基づく新評議員の任期は、平成29年4月1日からとなり、旧評議員の任期は平成29年3月31日に満了します(附則第9条)。
平成28年度 |
*定款の変更 *評議員選考委員会の設置(評議員の選出) *新役員候補者の選定 *会計監査人候補者の選定 |
平成29年度 |
*新理事会(改正法の理事会)を現役員で開催 ⇒決算・社会福祉充実計画・新役員案 *第1回定時評議員会(〜6月) ⇒決算・社会福祉充実計画・役員等報酬基準・新役員と会計監査人の選任 (現行役員の任期満了) *新理事会を新役員で開催 ⇒理事長の選定ほか
社会福祉充実計画の申請(6月30日まで) 現況報告書・役員等名簿・報酬基準等の届出 |
なお、一定の事業規模以上の場合は、会計監査人の配置が義務付けられています。会計監査人は評議員会の決議で選任されます。最初の定時評議員会までに候補を選定しておかなければいけません。
V)社会福祉充実計画について
社会福祉充実計画は、社会福祉法人が保有する財産のうち、事業継続に必要な「控除対象財産」を控除してもなお残額が生じる場合に、「社会福祉充実残額」を明らかにした上で、事業への計画的な再投資や説明責任の強化を図るために策定するものです。事業内容には、サービスの質の向上につながる建物・設備の充実や地域公益事業等の大規模な労力、職員の処遇改善を含む人材への投資なども含まれ、法人に応じた取り組みが行えるます。所轄庁への提出期限は6月30日です。社会福祉充実残額が生じた場合は、社会福祉充実計画を策定し、所轄庁への承認申請も進める必要があります。
*社会福祉充実残額の算定結果は、社会福祉充実残額が生じなかった法人についても、毎会計年度、所轄庁への提出が義務となっています。
*社会福祉充実残額が生じたら
社会福祉充実残額は事業継続に必要な財産額を上回る部分です。その原資は主として税金や保険料等の公費ですので、法人はこの貴重な財産を地域住民に還元すべく、既存の社会福祉事業や公益事業、新規の事業等の財源としていかなければなりません。その実施計画を記した「社会福祉充実計画」は、国民に対する法人の説明責任の観点から、使途のみならず策定のプロセスについても、以下のように定められています。
※注:監事監査の終了後とする等、決算が明確となった段階で行わなければなりません。
社会福祉充実残額の算定は毎会計年度行われますが、この結果、社会福祉充実計画を策定する場合は、これら一連の作業を決算の時期に合わせて行うこととなります。
参考資料:
厚労省「社会福祉法人制度改革について」